「自立度の高い親」を重度介護フロアに混ぜてはいけない理由と施設見学のチェックポイント

制度解説

「将来を見越した入所」に潜むリスク

かつて介護は家族の中で行われるものでした。

現在は介護保険制度が浸透し、いろいろなサービスや社会資源を使いながら、自分の生活を自分で決めて守っていくという老後のあり方が一般的になってきたように思います。

その中で多くの高齢者は、「自分の子ども世代になるべく迷惑をかけないように、心配をさせないように」とご自身で施設を決めて契約しておられる方も増えてきているのではないでしょうか。認知症と診断されていない、歩行も身の回りのことも自立している元気な親でも、配偶者の死をきっかけに自宅を引き払い施設に入ることもあります。

そして、今後長い目でお世話になれるようにという視点から、自立型の施設ではなく、まだ元気な段階から介護付きの老人ホームに入居される方もいらっしゃると思います。

私が今からお伝えすることは1つの事例だと思ってください。

ただ、終の住処と信じて入居した後、想像だにしない出来事が起こり、驚いたりがっかりしたりする方を少しでも減らすお手伝いがしたいと思って書きます。安心だと思っていた施設からすぐ退去することになるのは、精神的・金銭的にも負担の大きいことです。あるいは本人がご家族に言えずにずっと我慢し続ける結果になるのは、最も避けたいことだと思います。

※この記事は認知症の方を批判する目的ではありません。認知症は病気であり、ご本人にも尊厳があります。この記事では、「認知機能の差が大きい人が同じ生活空間で暮らすことで起こる生活上の衝突やストレス」について、施設選びの視点から書いています

ホラーのような日常:Aさんの日記

静かで快適な老後を買ったと思って、個室の介護付き老人ホームに入居したAさん。
いざ入居してみると、そこには想像もしなかった日常が待っていました。

・壁越しのテレビ大音量

お隣の部屋の方、少し耳が遠いご様子です。朝から晩までテレビの大音量が壁越しに響いてきます。でも、これくらいはお互い様ですね。消灯時間になれば静まりますし、私も部屋で好きなクラシックを聴いていれば大丈夫。なんとか我慢できる範囲です。

・繰り返されるノックと不法侵入

毎日毎日、いろいろな入居者が何度も私の部屋をノックして同じことを聞いてきます。今日は知らない方が勝手に自分の部屋のトイレに入りこんで大便をしていました。職員さんを呼ぶとすぐに謝罪と清掃をしてくれましたが、他人が許可なく部屋に入り込んでくることがとても怖かったです。

・冷蔵庫のプリンが盗まれた日

 楽しみにしていた冷蔵庫のプリンを、勝手に食べられてしまいました。職員さんに訴えましたが、「お年のせいか、勘違いでは…」という目で見られてしまいました。まるで私がボケて『物取られ妄想』をしていると疑われているようで、情けなくて涙が出ました。必死に訴えて防犯カメラを確認してもらい、ようやく他人の侵入だと分かり、施設長さんが謝罪に来てくれました。でも、プリンは返ってきませんでした。

・食事の席での恐怖

食堂では、周りの方とのたわいもない会話を楽しみにしていました。でも、隣の席の方は、大変朗らかに笑っていらっしゃるのですが、毎日毎日、全く同じお話を繰り返されます。少し聞き疲れてしまいました。
さらに前の席の方は、いつもはおとなしいのに、今日、急に手を伸ばしてきて私のおかずを食べ始めてしまったのです。本当に怖くて、びっくりして、食欲がなくなってしまいました。

・ 夜間の騒音と徘徊

夜中は、どなたかが一晩中ぶつぶつと独り言を言いながら廊下を徘徊しています。気になって眠りが浅くなってしまいます。

先ほども、不意に遠くから「助けてー!」「おうちはどこですか?」と切り裂くような叫び声が聞こえました。はっと目が覚め、動悸が止まりません。朝になっても体が重だるいです。職員さんは優しく話を聞いて、「よく眠れるお薬を処方してもらいましょうか」と言ってくれました。でも、私が薬を飲まなければいけないのでしょうか。


この日記は、まるでホラーのような、でもこれは決して大袈裟ではない介護老人ホームの日常です。

施設内は「治外法権」じゃない

認知症の方を批判しているわけではありません。彼らは病気であり、好きでそのようなことをしているわけではないことは事実です。

ただ、認知症とそうでない人が混在している施設において、比較的認知機能に問題がない人にとっては、ホラーとも言えるストレスフルな毎日が展開されてしまう可能性があるという事実をお伝えしたいのです。

面会に来られるご家族は、夜間どれぐらいの騒音の中でご本人が寝ているのかは分かりませんよね。大抵の人は想像がつかない部分だと思います。プライバシーが守られるはずの個室をあてがわれていて、親がそんな目に遭うなんて想像してもいないはずです。

「個室だからプライベートが保たれる」という期待と、「ドア一枚隔てた先は、24時間叫び声や徘徊が続くカオスである」という現実。

このギャップこそが、比較的認知能力に問題のない入居者を精神的に追い詰める「真実のホラー」ではないでしょうか。

相手が病気だからと言って、施設内は治外法権ではありません。加害側、被害側の双方に尊厳があります。自立度の高い人が「自分のプリンが盗まれる」「夜中に知らない人が立っている」環境で、平穏に暮らせるはずがありません。

老人ホームは病院(治療の場)ではなく、高い費用を払って契約した「住まい」です。ホテルの隣の客が勝手に部屋に入ってきて冷蔵庫のものを食べたら大問題になるのと同様、老人ホームでも専有部に許可なく入られることをよしとする必要はないし、責任能力が欠如しているからといって、施設側が『盗難の事実』をうやむやにして良いことにはなりません。

自分や自分の家族の「平穏に暮らせる権利」が守られるためにも、我慢をし続ける必要は全くないと思います。

後悔しないために入居前に確認したいこと

ここで挙げるチェックポイントは、正直に申し上げて「すべての施設がクリアできるわけではない高いハードル」です。しかし、だからこそ事前に確認し、どこまでなら妥協できるかのラインを本人と家族で話し合っておく必要があります。

1. 居室とフロアの防衛

「要介護(認知症)フロア」と「自立フロア」の分離:
フロアが分かれているかだけでなく、エレベーターや階段のセキュリティ(暗証番号や鍵)があり、要介護フロアの人が自立フロアに来られない仕組みになっているか確認します。また、随時認知能力に応じてスムーズにフロア(居室)を変更してくれるかも大切なポイントです。

個室の鍵の仕様:
「自分の部屋に鍵をかけられるか」は死活問題です。緊急時はスタッフのマスターキーで開錠可能な仕組みが前提ですが、勝手に入り込まれる恐怖を防ぐには、内側から施錠できるタイプが理想です。食事など不在にするときに外から鍵がかけられるよう、本人にも鍵を預けてもらえる施設だとなお良いかもしれません。

(※これは長い目で見ると、徐々に自身で管理できなくなってくる場合もあるので、随時施設と家族で連絡を取りながら状況に合わせていく必要があります)

「鍵付きの冷蔵庫」や「金庫」の導入:
個室内に、さらに鍵がかかる保管場所を持ち込んでも良いか確認しましょう。

損害が発生した際の「施設の対応」:
「もし悪気がなくても、他の方に私物を壊されたり食べられたりした場合、施設としてどう補填・対応してくれますか?」と、あえて契約前に聞きづらいリスク管理の部分を確認してみるのも手です。

2. 食堂のゾーニング(ここが一番「現場」が出ます)

見学は「食事どき」を狙う:
叫ぶ声や、他人の食事に手を出してしまう人がいないか、その際スタッフがどう動いているかをチェックします。

「自立」の割合を聞く:
要介護度が低い(=比較的認知機能に問題が少ない)人が何割くらいいるか。1割しかいない環境に自立した親が入ると、その1割の人にストレスが集中する可能性があります。同じ世代の方がどれくらいいるのか、も良い質問です。

話す相手がいないというのは、想像以上に辛い生活です。仮に施設内にお話しできる利用者が少なくても、施設が頻繁に傾聴ボランティア(お話相手)を導入しているかどうかでも生活の質は変わってきます。

食事の席の配慮:
比較的お話のできる方同士を同じ食席にしてもらえるのか、また認知機能の低下など、状況に応じて随時食事の席を見直してもらえるのかを確認します。

 入居後も家族の目でモニタリング:
入居後はあえて食事中にこっそり面会に行き、親が雑談を楽しみながら食事ができているかをチェックしに行くのも良いと思います。必要があれば、本人と相談して食席の変更を施設側に進言しましょう。この際食事時間はスタッフが多忙なため見学にとどめ、相談は時間をずらすのがベターです。

3. トラブル時の初期対応ルール

「部屋への侵入」が起きた時のマニュアル:
万が一、誰かが部屋に入ってきたりトラブルが起きたりした場合、施設側が「お互い様ですから」で済ませるのか、即座に部屋移動や対策を講じるのか、その姿勢を確認します。

「精神的ダメージ」への対応度:
認知症の方が別の方に危害を加えて怪我をさせてしまった、私物を壊してしまった、というのは施設も放置できない大変な事案です。ですが、「叫び声」「徘徊や騒音」といった精神的ダメージは、報告書に載らないケースが多々あります。職員にとって日常茶飯事であるこの出来事は、大きな問題として対処されず「平穏な一日」として記録されかねません。「大変でしたね。申し訳ございません(でもお互い様ですから許してね)」で流して良いものではなく、どこまで親の目線に立って対策を講じてくれるのかは最も大切なポイントといえます。

まとめ

認知症の人が「悪」なのではありません。

しかし、「認知症だから悪気はない」と言われると、プリンを失った側は、それ以上怒ることを「器が狭い」「理解がない」と責められているように感じ、口を閉ざしてしまいます。
施設側が「病気の方の事情」を盾にして、プリンを奪われた側の権利を奪っている構図はとても不当です。

施設は、認知症の症状を支える場所であっても、他の入居者の生活や尊厳まで犠牲にしてよい場所ではありません。

一方で、今は静かに暮らしている自分や親であっても、「いつかは認知症によって周囲との生活調整が必要になるかもしれない」という視点も、私たちは常に持ち合わせていなければなりません。

自立フロアから要介護フロアへの将来的な移動は必然です。

要介護フロアで周囲に影響を与えてしまう方は、最初は1人で食事をする席への移動、あるいは食事の時間をずらしたりして対応されますが、それでも「多動・異食・大声」などが止まらない場合、家族や主治医と相談の上、「向精神薬による鎮静」も対応の選択肢に入ってきます。

影響を与える側、与えられる側、どちらにもなり得るのが介護施設です。
だからこそ、施設の実態を正しく情報収集し、後悔の少ない選択に役立てていただければ幸いです。


あなたは、自分のプリン(=尊厳)が奪われても、『病気だから』と笑って許せますか?

この記事を書いた人

社会福祉士資格を保有。

高齢者分野の相談員として勤務しながら
制度や支援の現場に関わっています。

家族の病気体験を中心に、
当事者としての経験と、支援職としての視点の両方から
わかりやすく情報をお届けします。

いのりをフォローする
制度解説
シェアする
いのりをフォローする
タイトルとURLをコピーしました